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ギター製作家|阿部 康幸さん

周南市で音楽と出会い、「こころの糧」となる音をめざして。約40年間、周南市でギターをつくり続ける。

01.プロフィール


1949年、周南市(旧徳山市)生まれ。今宿小学校、住吉中学校、徳山高校と、高校までを周南市で過ごし、大学進学のため上京。卒業後、一般企業に就職したが2年で退職し、ギター職人になるためにギター工房へ弟子入り。それから約50年、ギター製作の道を歩み続ける。帰郷して現在の地に工房を構えたのは、今から約40年前。目標は、体力・気力が続く限り、ギターをつくり続けること。

02.モノとコト

形ではなく、「音楽」を追求したギター
周南市の街並みを一望できる望海台地区にある工房でつくられる阿部康幸さんのギターは、見た目の美しさではなく、奏でられる「音楽」を追求したクラシックギター。素材も技巧もこだわり尽くし、年間に作ることができるのは多くて12〜13本だそうです。ギター職人になって50年、これまでにたくさんのギターをつくってきた阿部さんですが、年齢を考慮し、数年前に「あと100本つくる」という目標を決め、現在はそれを達成するために粛々とギターをつくり続ける日々を送っています。ちなみに、残りの本数を聞いたところ「60本くらい」との答えが返ってきました。

カンナやノミを使って、全て手作業で完成させる

阿部さんがギターづくりに用いる材木は世界各国から仕入れた選りすぐりのもののみ。一度に100セット程度は仕入れるそうですが、阿部さんのギターの材料として使えるものはその中で多くても半分くらい。この50年で道具や機械が進化したにもかかわらず、阿部さんはその材料を用い、これまでと変わらぬ手作業での製作を貫きます。カンナやノミで少しずつ削って木の性格を知り、途中でコンコンと叩いて響きを知り、そういった細かい作業を繰り返しながら、理想の『音』をつくりあげていき、なんと完成までに2年ほどの月日を費やします。しかも、そのうち1年以上もの月日を塗装にかけるというのです。「組み立てが半分、塗装が半分くらいの労力です。塗装によって音は変わります。それをどこまで突き詰め、どこを妥協点にするかという精神的な戦いが私のギターづくりで一番苦しいところかもしれません」と阿部さん。素人が聴く分には全くわからないという音の違いを阿部さんは追求し続けているのです。


ギターの骨組み「力木」の設計も阿部さんのオリジナル
ギターのサウンドホールから中をのぞくと、ボディの内側に木が貼ってあるのに気がつくはず。これは、力木(ちからぎ)というもので、板が歪まないように補強するだけでなく、音の伝達板としての役割も果たしています。通常、クラシックギターではスペインの製作家・トーレスが発明した力木のシステム「トーレススタイル」を用いることが多いそうですが、“阿部ギター”に用いられるのは阿部さんの完全オリジナルスタイル。長年ギターをつくり続ける中で、材料と音を何度も何度も確かめながらたどり着いたものだといいます。「ようやくこの歳になってギターがわかってきました。やっと名器に近づけたと感じています」と阿部さん。阿部さんのつくるギターの中にも、「トーレススタイル」と「阿部スタイル」があります。この2つを聴き比べたとき、後者の方がやわらかく奥行きがある音に聴こえました。「いつかこの阿部スタイルが世界に普及する日が来るはずなんです」と茶目っ気たっぷりに笑う阿部さんからは、少年のように純粋にギター製作を楽しんでいる様子が伝わってきました。

海を渡り、異国の地でも音楽を奏でる“阿部ギター”
阿部さんのギターは、楽器店を通じた販売はしておらず、これまでに培った人脈の中で、1本、また1本と売れているそうです。その人脈は、若い頃からコツコツと築いてきたもの。ある時はギターを抱えてドイツやフランスに行き、プロの演奏家に売り込んだり、ある時は国内で開催される演奏会に出向いてギターを紹介したりと、自分の足であちこちを回ったといいます。実際に弾いてもらい、音を知ってもらったうえで徐々に広まった“阿部ギター”は、現在、海を渡った異国でもその音を響かせています。「あちこち回る中で、ドイツの都市ケルンにある音楽大学の教授や、日本のクラシックギターの第一人者とつながることができたことがすごく大きかったと思います」と阿部さん。YouTubeで、阿部さんのギターがブラジルで奏でられている動画を見つけたときは、とても嬉しかったそうです。

心の糧となる音づくりを限界まで続けたい
阿部さんが目指すのは「心の糧となる音づくり」。それを叶えるために一番注力しているのは、バランスの良さ、つまり、いかに美しいハーモニーが奏でられるかどうかだそうです。「実はハーモニーを奏でられる楽器はすごく少ない。ギターはすっと手に取れてさっと音楽が奏でられる数少ない楽器の一つ。人々の生活に寄り添い、豊かにできるようなギターをつくっていきたいです」と阿部さん。これから阿部さんがつくるギターは残り60本程度。もし阿部ギターに興味があるなら、ぜひ工房を訪ねてみてください。その音を直に聴き、阿部さんの人柄に触れれば、きっとその素晴らしさに魅了されるはずです。もしかしたら、「ギター職人になりたい」という気持ちも芽生えるかもしれません。

03.インタビュー

「音楽」に出会わせてくれた周南市

周南市で50年近くクラシックギターを製作している阿部康幸さん。生まれも育ちも周南市、音楽、そして、ギターと出会わせてくれたのも周南市でした。

「小学校の頃、2つ上の兄が周南市内の病院に入院したんです。そこにクラシック音楽が好きな人がいて、その人に影響を受けた兄もとことんクラシック音楽が好きになり、ついにはギターを始めました。それがきっかけとなり、私も音楽やギターに興味を持つようになりました。」

市内にある住吉中学校に入学した阿部さんのお兄さんは、音楽の先生の呼びかけもあって、中学校に吹奏楽部を創設しました。その後、お兄さんと同じ中学校に入学した阿部さんも吹奏楽部に入部し、トロンボーンを担当。ギターを始めたのもその頃からで、常に音楽がある毎日を送っていました。中学校を卒業後、市内にある徳山高校に入学。そこでも吹奏楽部を続けていましたが、それと同時にギタークラブにも所属し、文化祭では体育館でソロ演奏を披露したこともあるそうです。

中学、高校と音楽漬けの日々だった阿部さんですが、大学は税理士になるために東京経済大学を選択。そこでみっちりと経理を学び、卒業後はサラリーマンになりました。

「弟子募集」の広告を見つけて工房に

サラリーマンになった阿部さんですが、どうしても音楽の世界を忘れられず、次第に違う道を模索するようになったそう。

「ギター奏者になるのは到底無理だろうと諦めました。でも、昔から左利きで、器用で、木工がすごく好きだったので、ギター職人ならいいんじゃないかと。向いているかどうかより、ずっと音楽に関わっていけることに大きな魅力を感じましたね。そんな時、ある雑誌でギター工房の『弟子募集』の広告を見つけ、『これしかない!』と思いました。結局、2年でサラリーマンは辞めて、広告を頼りに全く面識のないギター工房に弟子入りしたんです。」

ギター工房に弟子入りした阿部さんは、そこから5年間、無我夢中でギターづくりを学びました。その後、今度は一人の職人として他の工房に雇ってもらい、3年間かけてお金を貯め、ついに一軒家を借りて独立を果たしました。しかし、それから間もなくして阿部さんはお母さんをガンで亡くし、周南市にいるお父さんの元へ帰ることを決意します。阿部さんを音楽の世界に導いてくれたあのお兄さんは29歳の時に交通事故で亡くなっており、お父さんは一人になってしまったのです。

 

周南市の街並みを一望できる自然に囲まれた工房

33歳で周南市に戻った阿部さんは、工房に適した場所をあちこち探し回ったそうです。ギター製作に集中するため、静かな山の中がいい、そしてできればお店も近い方がいい。けれども山は湿度が高いし、雨が降りやすい。標高が高ければ冬は朝晩霜が降りる…。ギター制作に大きな影響を与えない、そんな厳しい条件をくぐり抜け、奇跡的に見つかったのが現在の「阿部ギター工房」。周南市の街並みを一望できる望海台地区にあります。

「山がすぐそばにあって、暖かい陽光が降り注ぐ。しかも風通しがいい。偶然見つけたこの場所は、普通の民家ですけど、まさに私が理想とする工房でした。もう亡くなってしまいましたが、毎朝愛犬と一緒に家を出てこの工房に通っていました。9年くらいは父も一緒にここに来て、庭で趣味の盆栽に没頭していましたよ。新型コロナウイルス感染症が流行する以前は年に数回、室内楽(少人数編成の重奏)の演奏会を開いていました。ギター製作は本当に孤独な作業ですが、愛犬や父、音楽仲間、ご近所さんたちに支えられて、どうにか今日まで続けてこられています。」

環境に恵まれた工房ですが、東京にいたときのように音楽家やギター奏者とのつながりをつくるのは大変だったそうです。

「地方ですからやっぱりつながりをつくるのは難しい。ですから、東京や大阪から九州に演奏活動をしに行く人たちに声をかけて途中の宿として使ってもらったり、この工房や周辺での演奏会を企画したりと、とにかくできることをやりました。年に1回はヨーロッパに行って、現地で開催されるフェスティバルやギター工房を巡ったり、楽器記念館に行ったりもしました。でも、おかげさまでいろんな人と出会え、ギター製作の刺激になったり、私のギターを知ってもらうきっかけになりました。今では周南市に工房を構えたからこそ成せたことだと思っています。」

たくさんの人に支えられてきたという阿部さんですが、最も感謝しているのは、やはり奥様だそう。阿部さんの自由奔放な行動をずっと見守り、支え続け、ギターづくりに没頭させてくれたのは他ならぬ奥様だと話してくれました。

 

豊かな自然と人の温かさが周南市の魅力

周南市で音楽に出会い、周南市で50年近くギターをつくり続ける阿部さんに、周南市の魅力をお尋ねしました。

「海があって、山があって、自然が近くにあるところがやっぱり魅力。周南市はどこを歩いても緑が素晴らしい。広すぎず、狭すぎず、ちょうどいい大きさなのもいいし、働くところがたくさんあるのもいい。それと、人と人とのつながりが強いのも魅力ですね。ギター製作とは全く関係のない友人が、私の体力維持のために一緒に散歩してくれたりするんですから、本当に人が温かい地域だと実感しています。」

そんな阿部さんの思い出の地は、周南市の今宿地区を流れる山田川だそう。

「子どもの頃はしょっちゅう山田川で川遊びをしていました。徳山動物園の辺りも昔は何もなくて、私たちの格好の遊び場でしたね。私の中の周南市は、『戦前からの工業地帯』というイメージ。工場で栄えたまちなのに、すぐそばに自然もある非常にバランスのいいまちだとずっと思っています。」

文化価値に対する意識がもっと高まることを期待

阿部さんにとって周南市は、ふるさとであり、ギター製作者になるきっかけをもたらした場所。だからこそ、周南市のこれからに大きく期待しているといいます。

「私がこれからの周南市に望むのは、文化価値に対する意識をもっと高めていってほしいということ。具体的に言えば、私たちがギターの演奏会をしたいと思っても、周南市にはちょうどいいホールがないんです。岩国市にも山口市にも防府市にも下関市にもあるのに、とても残念な事実です。周南市くらいの規模だったら、ギター演奏に適した響きのいいホールが1つくらいあってもいいといつも思います。」

阿部さんが文化価値に対する意識の向上を望むのは、周南市だけでなく、日本全体で音楽に対する意識がこれから変わっていくことを予見しているからだそうです。

「私たちはちょうど戦後の団塊世代にあたるのですが、当時はオーディオブームの絶頂期でした。初めて吹奏楽団が結成されたり、オーケストラが100人編成になったりなど、規模の大きな音楽が流行り、その陰でギターは廃れていました。その後、時代が進むと、今度はソロ演奏や室内楽が流行りだし、ギターは大きな音が求められるようになりました。そこから時代がさらに進み、今は音楽に対して、繊細さだったり、奥深さだったりが求められるようになってきたのです。やっと訪れてくれた、音楽が特別ではなく日常の中に当たり前にある時代、音楽が心の糧として求められる時代に、1本でハーモニーが奏でられるギターはこれからもっと重宝されるようになると期待しています。そうなれば、人々が気軽に音楽を楽しめる施設がまちにはもっと必要になると思うのです。」

周南市にもっと音楽の文化が育ち、根付いてくれること、それが阿部さんの願いです。

若い世代にギター製作の技術を引き継ぎたい

「願わくば、この周南の地にギター製作を伝統として残したい」と阿部さん。ギター製作を学びたい若者がいれば、いつでも受け入れる体制は整っているそう。ただし、ギター製作は孤独な作業。しかも、そう簡単に儲けられる仕事でもありません。それでも阿部さんは、これから先もクラシックギターはなくなることがないと断言します。

「これからは、電気で音を出す楽器や、集団で音楽を演奏するスタイルではなく、クラシックギターやアコースティックギターに愛着を感じる時代になってくると思います。原点回帰といいますか、音や音楽そのものを手軽に、身近に、そして純粋に求める時代がやってくるんじゃないでしょうか。そうならば、すっと手に取れて、さっとハーモニーが奏でられるギターがなくなることはまずありません。細々とでもいいので、若い方に私のギター製作を受け継いでもらいたいです。」

みなさんは、この周南の地に、ギター製作家がいることをご存知でしたか? そして、周南市でつくられたギターが国内のプロの演奏家だけでなく、海を越え、ヨーロッパや南米で奏でられていることをご存知でしたでしょうか? このインタビューを終えて残ったのは、「阿部さんが学び、磨いてきた技巧と感性をこの周南に残したい」という想いでした。阿部さんが1本でも多くギターをつくってくれること、阿部さんのギター製作を受け継いでくれる若者が現れてくれることを切に願います。

阿部ギター工房では、今日も丹精込めてつくられたギターの音が響きます。どうかこの音が長く長く響き続けますように。

04.関連リンク

記事:藤井 香織/ 写真:川上 優

執筆時期:2021年12月

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