インタビュー
移住者
鹿野・大潮地域 地域おこし協力隊|杉 のどかさん
「食」で人をつなぎ、鹿野を盛り上げていきたい!

1998年、山口県山口市阿東生まれ。生雲小学校、阿東中学校、山口高等学校を経て、岡山県の大学へ進学。栄養学科で「食」に関する幅広い知識を学び、管理栄養士の資格を取得。卒業後、大阪市内のイタリアンレストランや食器店で働いた後、山口県にUターン。祖父母の住む周南市鹿野で地域おこし協力隊の募集があることを知り、応募。2023年5月、周南市から委嘱を受けて、鹿野・大潮地域の地域おこし協力隊に着任。「大潮田舎の店」で販売している大豆加工品の商品改良や新商品の開発などに取り組む。任期後の2026年、鹿野に飲食店をオープン予定。趣味はドライブ。
モノとコト
今回は、2023年に鹿野・大潮地域の地域おこし協力隊※に着任し、3年目を迎えた杉のどかさんにインタビュー。食を通じた地域活性化に奮闘する杉さんに、これまでの道のりや地域おこし協力隊の活動、これからの目標などについてお話をうかがいました。
2023年、鹿野・大潮地域の地域おこし協力隊に着任

周南市の北部、鹿野・大潮地区にある「大潮田舎の店」は、地元で収穫した農産物や手作りの加工品を販売する直売所。市の指定管理者として大潮地区活性化推進協議会の女性メンバーが中心となり運営しています。しかし、オープンから20年が経過し、メンバーは高齢化。このまま続けていけるかが課題となっていました。そこで周南市は、食の担い手となる地域おこし協力隊を募集。2023年5月に着任したのが、杉のどかさんです。
※都市部から過疎化が進む地方に移住し、地方自治体の委嘱を受け地域住民と連携・協力して地域の課題解決や活性化等に取り組みながら、最終的にその地域への定住・定着を図る制度。任期は最長3年間で、報償費や活動費などの行政支援を受けながら活動が可能。
ミッションは大豆加工品の技術継承と新商品開発
杉さんに与えられたミッションは、「大潮田舎の店」で作られている大豆加工品の技術の継承や新商品の開発です。
「大潮田舎の店」の名物は豆腐。地元で生産する大豆と、錦川源流の山裾約60mから汲み上げる井戸水で作った「せせらぎ豆腐」が人気です。この豆腐を作る際にできる副産物がおからです。「大潮田舎の店」では、おからそのものやおからサラダとして販売されていますが、それでも使いきれないおからは廃棄されていました。杉さんは、このおからに目をつけて、新商品の開発に取り掛かりました。
「おからは食物繊維やタンパク質をたくさん含むすぐれものです。その上、低カロリーでヘルシー。捨てるのはもったいない。何とか有効活用できないかなと思いました。また、『大潮田舎の店』はドライブ途中に立ち寄る人が多いため、ファーストフード感覚で手軽に食べられるものがいいなと思い、おからを使ったドーナツを開発することにしました。」
もったいないから生まれた「おからドーナツ」

杉さんは、さまざまな意見を聞きながら、試行錯誤を繰り返し、およそ2カ月かけてレシピを完成させました。完成したおからドーナツは、ピンポン玉くらいの丸い形が特徴。外はサクサク、中はふわふわの食感です。
「おからをできるだけ多く配合したレシピです。おからや豆乳の原料となる大豆、米粉、小麦粉は鹿野産で、卵や乳製品は使っていません。」
おからが主役なので罪悪感も少なめ。地産地消にこだわった体にやさしいドーナツです。
2023年9月には、地域の人々や市の職員など関係者を招待して、大試食会を開催。「おからが入っているのにパサパサしていない」「しっとりしていて美味しい」と評判は上々でした。 「まるやまドーナツ」と名付けられたこのドーナツは、10月の「かのふるさとまつり」でお披露目したところ、あっという間に完売。瞬く間に人気メニューになりました。
地域に愛されるネーミングを考案
ところで気になるのが「まるやま」というネーミング。どんな想いが込められているのでしょう?
「大試食会のときに募集した中から選ばせていただいたネーミングです。大潮のシンボルである円山(まるやま)と、コロンと丸い形にちなんでいます。円山は「大潮田舎の店」の前に広がる山。昔から地域の人々に愛されてきた山です。」
現在、このまるやまドーナツは、毎週土曜日に「大潮田舎の店」で販売されているほか、「ふる里マルシェかの」にも不定期で並びます。
2024年には、新商品として「おからコロッケ」も登場。こちらもおから特有のパサつき感はなく、なめらかで食べやすいように工夫されています。和風な味付けで、おかずにもおやつにもおつまみにもなるヘルシーなコロッケです。
地域と外の声をつなぐ橋渡し役として

杉さんのもう一つのミッションが、既存商品の付加価値の創出です。杉さんは、大豆加工品の製造工程を見直して衛生管理を強化。商品の良さがより引き立つように、のぼりやPOP、シール、パッケージの見直しなどのサポートを行いました。
「新しいのぼりは、鮮やかなブルーと大豆のキャラクターがトレードマーク。パッケージの刷新にあたっては、資料を作って説明したり、試しに新しいパッケージを作ってお客さまの反応を見たりと、みなさんに納得していただいた上で進めていきました。」
夢は、地産地消への想いが込められた食堂

任期3年目の今、杉さんは地域おこし協力隊の任務と並行して、飲食店を開業するための準備を始めています。
「地域の人々の協力を得ながら、鹿野のメインストリートにある古民家を改修中です。2026年には鹿野の食材をふんだんに使った地産地消の定食屋を開きたいと考えています。目標は地元の人に喜んでもらうこと。地域の人々の憩いの場になれたらいいなと思っています。1店舗目が軌道に乗れば誰かに任せて、2店舗目を自分が手がけたいです。」
目をキラキラと輝かせながら、早くも2店舗目への意気込みを語ってくれた杉さん。どんなお店が鹿野に誕生するのか、オープンが今から楽しみです。
インタビュー
子ども時代のお菓子づくりの思い出
小さい頃から食べることが好きで、「いつか自分の店を持ちたい」と思っていた杉さん。休みの日は、母親と一緒にお菓子を作るのが楽しみだったそうです。
「クッキーやプリンなど、色々なお菓子を作った記憶があります。なかでも印象に残っているのはチョコレートケーキ。簡単なレシピでしたが、家族から『おいしい!』と言われて、すごくうれしかったのを覚えています。」
顔の見える関係の中ではぐくまれた絆
杉さんが育った山口市阿東は、周南市鹿野と同様に少子高齢化が進む中山間地域。親も子どももみんな顔見知りのアットホームな環境です。ここで、どんな子ども時代を過ごしたのでしょう?学校生活で一番印象に残っている思い出を聞いてみました。
「一番楽しかったのは中学校の文化祭です。実行委員長として運営に携わりました。和太鼓や演劇など、各グループの練習風景に密着して、ドキュメンタリー風の動画を制作しました。慣れないビデオカメラを片手に奮闘し、撮影にも編集にもかなりの時間を要しましたが、みんなが協力してくれたおかげで、とても良い作品に仕上げることができました! 終わったとき、他の実行委員メンバーが、私が使っていたビデオカメラにメッセージを入れてくれていて…もう涙が出るくらい感動しました。
栄養や食の大切さに気づいたきっかけ

本格的に「食」の道へ進もうと考え始めたのは、高校受験を控えた中学3年生のとき。体調不良に悩まされたことで、改めて栄養や健康、食の大切さに気づいたといいます。このときの経験から、高校に入学した際、「お弁当は自分で作る!」と決意した杉さん。3年間、毎朝欠かさず作ったというから驚きです。
大学時代に経験した飲食店のアルバイト
大学時代は岡山で過ごした杉さん。管理栄養士の資格を取るために栄養学を学ぶ傍ら、飲食店でのアルバイトを始めました。
「倉敷美観地区にある古民家カフェで4年間働きました。メニューを見るまで気づかなかったのですが、実は高校時代に訪れたことのあるお店だったんです(笑)。不思議なご縁ですよね。土日は観光客も多く、たくさんのゲストと触れ合う中で、飲食業の楽しさに目覚めました。」
また、夏休み期間を利用して、東京で活躍するフードデザイナーのもとで料理を学んだこともあるそう。
「ロケ弁やケータリングなど、幅広く活躍されている方で、食にはたくさんの可能性があることを知りました。彼女のレシピの特徴は、身近な食材を使って、いつものごはんをちょっと特別にすること。美味しさはもちろんのこと、フォトジェニックなスタイリングも素敵で、その場が華やかになったり、お客さまの気分を盛り上げることができたり…改めて料理の持つ力を感じました。」
杉さんは、管理栄養士の資格を取るために大学に進学したものの、在学中にその選択に迷いが生じたと言います。
「病院や高齢者施設での実習に参加したのですが、思っていたイメージと違っていて…。献立を考えることも好きですが、どちらかというと調理がしたい。しかも、顔の見える関係性のもとで仕事がしたいという気持ちが強くなっていきました。」
「好き」をスキルに! 興味のあった飲食業の道へ

地域おこし協力隊として祖父母が住む鹿野に移住
そんな杉さんですが、心の片隅には「山口に帰りたい」という想いがあったのだとか。ちょうどその頃に知ったのが、鹿野・大潮地区の地域おこし協力隊の募集の話でした。
「最初は仕事だとは知らず、ボランティアだと思っていました(笑)。地域おこし協力隊の任務は最長3年間。活動を通じて鹿野での暮らしに慣れながら、人脈を広げ、任期終了後の開業に向けて準備を進めていける。私にぴったりな仕事だと思いました。」
実は、祖父母が住んでいることから、子どもの頃から鹿野にはよく遊びに来ていたそう。
「小さい頃、お盆やお正月に遊びに行く場所だったので、鹿野には楽しい思い出しかありません。せせらぎパークで川遊びをしたり、石船温泉で温泉に浸かったり、自体会の盆踊りに参加したり…「大潮田舎の店」にもよく立ち寄って豆腐を買っていました。昔から祖母が開業を応援してくれていたので、お店を持つなら鹿野だなという想いもありました。」
一歩を踏み出す力をくれたのは地域の人

杉さんが移住を決意した最終的な決め手は、鹿野で活躍する人々の熱量です。
「現地を見学したときに出会った70代の方が、『鹿野の賑わいを取り戻したい』『カフェをつくりたい』と、目をキラキラさせて楽しそうに語ってくださって。きっと同じようにエネルギッシュな方が、鹿野にはたくさんいるんだろうなと直感しました。お話を聞いてみると、地域を盛り上げるプレイヤーが多く、おじいちゃん・おばあちゃん世代へのイメージも随分変わりました。単に移住しただけだったら、ご近所さんとしか関らなかったはず。地域おこし協力隊として移住したことで、鹿野を盛り上げようとしている人たちとつながることができたのだと思います。」
顔の見える人とのつながりは、都会にはない魅力。杉さんは鹿野での暮らしを心から楽しんでいるようです。
地域おこし協力隊の任期3年目を迎えた今、知り合いが増え、すっかり鹿野に馴染んでいる様子の杉さん。ここで、移住を考えている人へのアドバイスをお願いしました。
「地域に溶け込むために、地域の行事や会議、飲み会など、声がかかったものにはできる限り顔を出すようにしました。都会で暮らせば食べ物は『買う』のが当たり前ですが、田舎では各家庭で『育てる』ことが多く、お裾分けも日常的です。ご近所から野菜や果物をいただいたときは、いただいた食材を使って手作りのお菓子でお返しするようにしています。」
季節に寄り添った人間らしい暮らし

鹿野の魅力を聞いてみたところ、「緑に囲まれていて川や星空がきれいなところ!」と答えてくれた杉さん。鹿野への想いを語ってくれました。
「私が生まれ育った阿東も田舎なので、あまり気にしたことはなかったのですが、都会に出たことで、豊かな自然が身近にあることの贅沢さに気づきました。何より感動するのは、季節によって見える景色が違うこと。花であふれる春、赤や黄色で色づく秋、冬は幻想的な雪景色など、鹿野には四季折々の美しさがあります。そうした自然の中で生かされている感じが人間らしくてとても好きです。また、季節に寄り添った暮らしを体験できるのも鹿野の良いところ。野菜や果物は旬の時期にたくさん採って、漬物やジャムに加工して保存する。そんな暮らしていく上での貴重な知恵を教えてもらえるのもとても楽しいです。」
鹿野に移住して起きた気持ちの変化

もともと引っ込み思案だったという杉さん。鹿野に移住したことで、内面の変化もあったようです。 「人と接するのはあまり得意な方ではなかったのですが、さまざまな活動を通じて色々な人と話すうちに、人と接するのが『楽しい!』と思えるようになりました。以前はただ料理がしたいと思っていましたが、今はお客様との会話を楽しみながら調理したいと思うように。今度オープンする店はカウンターキッチンを採用しようと思っています。」
賑わいを生み出し、地域に恩返しをしたい!
最後に、任期後にオープンする食堂や鹿野への想いを語ってくれました。
「その時期に手に入る地域の農産物を使って、生産者にスポットが当たるお店をつくることで、地域に新たな賑わいを生み出したい。それが、私ができる鹿野への恩返しだと思っています。店舗予定の空き家の改修を手伝ってくれている中学生が、『来年、職場体験に来たい!』と言ってくれたときは、本当に嬉しかったです。地域の子どもたちに『将来ここで働きたい!』と言ってもらえるような魅力的な場所をつくりたいと思っています!」
杉さんの思いはきっと多くの人に届くはず。鹿野に根付いた彼女の新たな挑戦はまだ始まったばかりです。

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執筆時期:2025年12月
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