インタビュー

周南のヒト

漁師|村瀬 稔さん(父)・村瀬 祐太さん(三男)

伝統のタコツボ漁を守り、豊かな海を未来へつないでいく。

漁師/村瀬 稔さん(父)
1957年、山口県周南市生まれ。周南市戸田桑原地区でタコツボ漁を営む漁師の家に生まれる。大学進学に伴い上京。水産学部で生物科学を専攻する。卒業後、山口県にUターンし、山口県漁業水産試験場に勤務。27歳で独立し、養殖業も経験。父親の跡を継ぎ、地元でタコツボ漁を営む。2013年に漁業指導者資格を取得。山口県漁業協同組合が主催する漁業就業者育成イベントに参加し、2018年に戸田地区で初となるニューフィッシャー制度の研修を受け入れる。漁師歴38年の大ベテラン。

漁師/村瀬 祐太さん(三男)
1990年、山口県周南市生まれ。3人兄弟の末っ子。戸田小学校、桜田中学校、新南陽高校を卒業後、飲食業、倉庫業、サービス業など、さまざまな仕事を経験。休みの日は父親の船に乗り、タコツボ漁の手伝いをする中で、本格的に漁師を継ぐことを決意。山口県と周南市の漁業就業支援制度を活用し、2年間の研修を経て、2025年11月に独立。代々受け継がれてきたタコツボ漁と研修時に学んだ定置網漁の2本柱で漁師として新たなスタートを切る。小さい頃から無類の動物好き。

モノとコト

周南市を代表する海の幸「周南たこ」

今回スポットを当てるのは「周南たこ」です。周南たことは、周南市近海でとれるマダコのこと。瀬戸内の入り組んだ地形と、複雑な潮流が発生する場所に生息しているマダコは、小ぶりながら足が太く、身の締まりや味の濃さが格別。「周逸※」にも認定されている特産品です。

※周逸とは、周南市産の農林水産物を使用し、一定の基準を満たした産品を「周南の逸品」として認定したもの。 「周逸」は「周南」と「逸品」を組み合わせたもので、同じ発音である「秀逸」という意味も込められている。

タコの習性を利用した伝統的なタコツボ漁

周南市西部に位置する桑原漁港は、昔からタコツボ漁が盛んな地域。周南たこの主要産地の一つとして知られています。ここで代々タコ漁を続けているのが村瀬さん親子です。息子の祐太さんは、2年間の研修を経て2025年11月に独り立ちしたばかり。全国的に漁業者の後継者不足が叫ばれる中、未来の漁業を担う頼もしい存在です。

「亡くなった祖父も父もタコ漁を営む漁師。船もあるし漁具も揃っているのに、誰も継がずに絶やすのはもったいない。そう考えて、漁業を本業にすることに決めました。」

タコは、弥生時代から始まったとされる「タコツボ漁」によって捕獲されます。タコは、岩の隙間など暗くて狭い場所に身を潜める習性があります。この習性を利用したのが伝統的なタコツボ漁、まさに“思うツボ”の漁法です。

タコツボといえば、陶器でできた丸いものをイメージする人も多いかもしれませんが、村瀬さん親子が使っているのはプラスチック製の四角いタイプ。このツボにエサを仕掛けます。

父親の稔さんが、どうやってタコをとるのか教えてくれました。

「タコがエサを食べると、タコツボのふたが閉まる仕組みです。1本の長いロープに合計40〜50個、およそ15メートル間隔でタコツボがつながっています。これを10カ所前後の漁場に仕掛けます。夏場は3日に1度、冬場は1週間に1度、ローラーで引き揚げて、中に入ったタコを取り出します。」

タコのエサとなるのはカニ。このカニを捕まえるのも、漁師の仕事のひとつです。

「イワシを使って岩場にいるイソガニをおびき寄せます。よく夏場に道路に出てくる赤いカニがいるでしょう? あれはアカテガニ。それも歩きながら集めていく。意外とたくさん要るから、カニを捕まえるのも一苦労です。」

鮮度抜群! 周南たこが食卓に届くまで

タコツボ漁の漁場は大津島や黒髪島周辺。ロープの端には目印として浮きがついており、海面でも一目でわかるようになっています。

1本のロープを処理する時間は30〜40分。2人1組、息のあった作業が欠かせません。1人がローラーでタコツボを引き揚げ、船の上に並べて中身を確認し、タコが入っていればエサを付け替えて同じ場所で、入っていなければ違う場所へ投入する。地道な作業を繰り返します。このタコツボ、プラスチック製とはいえ、セメントの重りがついているため、1個5kg前後と意外に重く、扱うのは重労働です。

「ふたを開ける瞬間が最もドキドキするとき」と語ってくれた祐太さん。

タコが入っている確率は2〜3割。販売できるタコは200g以上のため、小さなタコは海に戻します。

「先日は200個仕掛けて40匹と、まずまずの水揚げ量でした。」

豊漁もあれば空振りもある、漁師は自然相手の仕事。たくさんとれたときの嬉しさは格別のようです。

とれたタコは、共食いしたり、へばりついたりしないよう、1匹ずつネットに入れて船の活け間(水槽)に入れて港に持ち帰り、波止の中で生かしておきます。そして、翌日の早朝に締めて、引き取りに来たトラックに乗せて市場に運びます。それが終われば、また日の出とともに漁に出かける。まさに体力勝負の仕事です。

タコを守り、持続可能な漁業を目指して

「近年、水温の上昇などで漁獲量は減少傾向に。漁師にとって厳しい状況になってきています」と稔さん。

そこで、山口県ではタコを守る取り組みとして、毎年、産卵期の9月から10月にかけて禁漁期間を設け、卵を守っている雌タコを保護しています。加えて、周南市では産卵用のタコツボを3,500個ほど沈設し、タコの産卵環境を整備しています。この産卵用タコツボは、数年で土に戻る素焼きのものが使われています。こうした努力の甲斐あって、周南市のタコの漁獲量は一定量を維持できているとのことです。

プリプリの食感と濃厚な旨味がたっぷり!

タコは年間通じて水揚げされますが、秋の産卵までに栄養を蓄えるため、最も美味しい時期は6〜8月。半夏生にタコを食べる風習もあることから、タコの旬は夏とされています。

タコは高タンパク・低カロリーのヘルシーな食材。栄養ドリンクの成分として知られるタウリンを豊富に含んでおり、疲労回復が期待できるといわれています。

たこしゃぶ、たこ焼き、天ぷらなど、味わい方はさまざまですが、なんといってもおすすめは刺身。鮮度抜群の周南たこは、プリプリとした弾力がありながらも身が柔らかく、旨味がたっぷり詰まっています。また、ぶつ切りにしたタコと米を一緒に炊き込んだタコめしは、タコの旨味がギュッと詰まった逸品。飲食店はもちろん、学校給食でも提供されています。

周南たこは、市内のスーパーや道の駅ソレーネ周南でも販売されています。皆さんも周南たこを見かける機会があれば、漁の風景や漁師さんの苦労を思い浮かべてみてください。きっと食べる楽しみや食べたときの美味しさが増すはずです!

インタビュー

周南市戸田桑原地区でタコツボ漁を営む村瀬さん親子。漁業発展のために力を尽くしてきた父親の稔さん、漁業の未来を担う一員として新たな一歩を踏み出した息子の祐太さんに、これまでの道のりや地元への想い、今後の目標など、お話をうかがいました。

まず口火を切ってくれたのは祐太さんです。3人兄弟の末っ子という祐太さん。どんな子ども時代を過ごしたのでしょう?

「兄たちと一緒に、ピアノやスイミング、野球、公文など、色々な習い事を経験しました。なかでもハマったのが小4から習い始めた陸上。短距離走の楽しさに目覚めました。おかげで、足が速くなり、運動会では上位に入れるように。中学時代はバレーボール部に所属していましたが、年に1度の陸上大会にも出場。周りから『速くなったね!』と褒められて、どんどん記録が伸びていくのが嬉しかったです。」

理想は、動物に囲まれた自給自足の暮らし

動物と触れ合うことも好きだったそう。小さい頃は家で飼うことはできなかったものの、大人になってからペット解禁。これまでイヌやネコ、ハムスター、モルモットなど、たくさんの動物を飼ってきました。父親の稔さんも驚くのは、その可愛がりようです。

「今は、ロシアンブルー4匹、マンチカン1匹、ニワトリ14羽と暮らしています。ネコのエサはとれたての魚。骨があると食べてくれない。刺身の状態にして与えています(笑)。」

ニワトリを飼育しているのは、卵を産ませて、食料自給率を上げる目的もあるそう。

「卵も魚も野菜も全て自分で賄える。屠殺の問題がクリアできれば肉も手に入る。理想は自給自足の暮らしです。」

生まれ育った周南市が一番落ちつく場所

祐太さんが生まれ育った周南市戸田桑原地区は、人口51人、26世帯(2025年12月31日現在)が暮らす小さな集落です。

「目の前には海、裏手には山が広がる、自然に囲まれたのどかな環境です。小さい頃は、山に登ったり、海水浴をしたり、アケビやクリを採ったりしてよく遊んでいました。人も穏やか。魚や野菜を分け合うお裾分け文化も残っています。知った顔ばかりだから、安心感がありますね。」

豊かな自然と温かいつながりの中で育ってきた様子がうかがえます。

高校を卒業後、周南市にあるゴルフ場内のレストラン、石炭を貯蔵する倉庫など、さまざまな職場で働いてきた祐太さん。お兄さんと一緒にニュージーランドでワーキングホリデーをしたこともあるのだとか。

「2週間、ニュージーランドで農業の手伝いを体験しました。ニュージーランドといえば、広大な牧草地と羊の群れ。そんな大自然の中に身を置いて仕事をするのもいいかなと思いました。」

帰国後、祐太さんは地元に戻り、レジャー施設のスタッフとして働き始めます。地元を離れようと思ったことはないのでしょうか?

「せかせかした都会は苦手。やっぱり生まれ育った場所が一番落ち着きます。地元を離れようと思ったことは一度もないですね。」

父の背中を追いかけて、本格的に漁師の世界へ

続いて、父親の稔さんにもお話を聞きました。

子どもの頃から漁師である父の背中を見て育ってきたという稔さん。かつては漁業で栄えた戸田桑原地区も、今では漁業に携わっているのは数軒程度。他の漁港と同様に、高齢化と後継者不足という荒波に直面しています。

「浜に10人以上いた漁師も気づけば半分。年寄りしか残っていない…」

危機感を覚えた稔さんは、同地区で初となるニューフィッシャー制度の研修を受け入れました。しかし、その研修生が独り立ちすると、再び1人で漁に出ることに。

「暑い日も寒い日も漁に出なければいけない。歳を重ねるごとに体力的な負担は増すばかり。体がきつくなってきたので、息子に漁を手伝ってもらうように頼みました。」 

休日を使って漁の手伝いをするようになった祐太さん。父親から「継いでほしい」と言われたことは一度もなかったものの、ある想いが次第に膨らんでいきました。 「一番上の兄が『定年後に家業を継ぐ』と言っているけれど、それを実現するにはあと20年はかかります。それまで父が現役でいることは厳しい。このまま手伝いを続けていても、漁師の経験年数としてカウントされないし、研修を受けなければ独立はできない。だったら、今すぐ周南市に就業を申請した方がいい。そう考えて、漁師になることを決意しました。」

就業の後押しとなったのは、行政の手厚いサポート

周南市では、新たに漁業に従事しようとするニューフィッシャーに対して、国や県と連携し、長期漁業研修、独立後の給付金支給、漁船や漁具のリース料総額の約50%の補助など、さまざまなフォローを行っています。この制度を活用して、祐太さんは2年間の漁業研修を受けました。

「申請はしたものの、まだ漁師として稼げる自信がなかったので、周南市の手厚いサポートはとても助かりました。研修手当は最大で月に15万円。私は実家暮らしのため、月10万円を支給していただきました。独立後最長2年間にわたって支給される給付金制度は、まだ漁獲量が安定しない新人漁師にとって心強い後ろ盾。船の返済金も補助していただけるのでありがたい限りです。」

2つの漁法を組み合わせて安定収入を目指す

祐太さんが1年目の研修先で学んだのは定置網漁です。定置網漁は魚を追い回さず入った魚だけをとる資源管理型漁法。家業のタコツボ漁とはまた違う面白さがあったと言います。

「ブリやスズキ、ヒラメなど、季節ごとにいろんな魚が獲れるのが面白い。まるで水族館。でっぷりとしたトラフグが入っていたときは驚きましたね。毎回何が入っているかわからないワクワク感があります。」

2年目の研修では、父親の稔さんのもとで本格的にタコツボ漁を学びました。

「思ったよりも覚えることが多くて大変でした。父は長年の経験から『この時期はここにタコがいる』とわかっている。徳山湾の外にも漁場はたくさんあるから、漁に出てその都度教えてもらいながら覚えていきました。」

「昔は、山と山のくい合わせ(接する場所)を見て、タコがいる場所を覚えた。今はGPSを頼りにしているけれど、海の上で機械が壊れる可能性もある。水面に出ていない岩場もあるから、事故を防ぐための知識と判断も必要」と稔さん。先輩漁師からのアドバイスです。

漁師としてやりがいを感じるのはどんなときでしょう? 祐太さんに聞いてみました。

「自然相手なので水揚げが予測できない難しさがある。でも、努力した分や工夫次第で結果が返ってくる面白さもある。自分の腕1本で勝負ができる世界だと感じています。」

続けて、稔さんが若い頃を振り返り、次のように語ってくれました。

「昔は封建社会(笑)。師匠と弟子の関係が強固な時代でした。周りは年長者ばかりで、同世代はいなかった。漁師である父からガミガミ言われながら学んだものです。今は、研修制度がきっちりしているおかげで若手も安心して学べる。周りも優しく教えてくれる。いい時代ですよね。」

若い力で浜を盛り上げていきたい!

最後に、独り立ちしたばかりの祐太さんに、これからの目標を聞いてみました。

「まずは安定した収入を得ること。船が艤装中なので、定置網漁に出るのはまだ先。今は父に聞きながらタコツボの仕掛け場所を決めているので、いずれ1人で判断できるようになりたいです。戸田地区には20代が1人、自分を含めて30代が2人と、若手の漁師もいます。そうした若手とも交流を深めながら浜を盛り上げていきたい。若い世代に『漁師になりたい!』と思ってもらえるように頑張ります!」

インタビューの最後、「小さい頃から慣れ親しんだ海が汚いと悲しい。いつまでもきれいであってほしい」と、切実な声を耳にしました。海を守り、漁業を守り、故郷を守っていきたい…。村瀬さん親子の挑戦はこれからも続きます。

記事:小野理枝/写真:川上 優
執筆時期:2026年1月
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